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養老孟司氏インタビュー

英文版『バカの壁』の刊行にあたって、養老孟司さんに、英語のことについてお話をお聞きしました。

-以前、ご著書のなかで話したい内容によって使う言葉を変えるとおっしゃっていましたが、バカの壁ですと、何語で話されたいとお考えでしょうか。
やっぱり英語がいいと思います。でもこの本の場合は元々が日本語ですから、はじめから英語で書く場合には書き方を考え直さないといけませんね。英語は具体性をあげて、日本語だと書かなくて済むことを書かないといけなくなりますから。
日本語は心の言葉です。賛成、反対、好きか嫌いか、っていうのはおのずから出てしまう。そういう自白系の言葉は得意なのだけれど、説明には向かない。よく西洋語の方が客観性が高いっていいますが、それは説明的だからです。
たとえば、『雪国』の冒頭にある「トンネルを抜けるとそこは雪国だった。夜の底が白くなった」の英訳は、
The train came out of the long tunnel into the snow country. The earth lay white under the night sky.
となって、まずは主語のtrainから説明しなくてはいけないわけです。「夜の底が白くなった」、という表現もearthという主体の情報をきっちり加える必要が出てくるのです。
英語で論文を書いていると気づきますが、日本語なら見たままで書けばいいものを、英語の場合は観察まで戻らないと書けなくなるんです。つまり、見ていない場所まで戻って伝える。そこのところをはっきり指定してあげないと英語の文章にならない。そうでないと具体性がなくなって何かが落ちている感じになってしまいます。

 それから日本語で面白いのは、読むときに、脳を2カ所使っているということです。
たとえば日本語の場合、文字が読めなくなる患者さんに、漢字が読めなくなるケースと仮名が読めなくなるケースがあります。大きな障害があると、意識がないから言葉自体理解できないんですけど、障害が小さいとパターンが漢字と仮名にきれいに分かれます。つまり、日本人は脳のなかで2カ所の違う場所を使って読んでいるということです。乱暴にいうと、脳を英語の2倍使って読んでいるということ。
脳を倍使って読んでいるっていうことは、読む側の容量が倍あるっていうことになります。恐らく、同じ情報量を日本語で読む場合と、西洋語で読む場合では、日本語で読む方が速いでしょう。ロシア語と日本語の同時通訳をしている米原真理さんも、ロシア語を読みながら日本語を話す場合より、日本語を読みながらロシア語を話す方が、7、8倍速いとエッセイで言っていました。
それはどういうことか。日本語は書き言葉に重きを置いているのです。日本では、昔から「読み書きそろばん」というように、おしゃべりはそれほど重要とされていなかった。故に書き言葉と話し言葉が日本語の場合かなり離れているという特徴があります。
対して、アルファベット言語は音声言語なのです。「キャット」という音に対応する言葉はcatしかないですね。「catってどのcatだ」、なんて聞くヤツはいないわけです。英語では、一語に対して一音しか当てられない。ところが日本語の場合は、「コウクウ」って言ったときに、「航空」なのか「口腔」なのか「高空」なのか即座に漢字変換しなくてはいけません。書字言語が優位に立っているから、そういうことが起こるのです。お隣の韓国でも漢字を使っているじゃないか、と言われるかもしれないが、韓国の漢字はすべて音読みで使われています。
日本人が他の言語を読むことはできるけど、話すことは苦手な理由はこの性質にも拠っているんです。

-最近、公立小学校での英語教育が問題になっていますが。
それはまさしく教え方によるね。へんな教え方をするなら教えない方がいいということが世の中には沢山ある。言葉は特にそう。英語の前に日本だったら日本語を教えなくてはいけない。日本語をまともに操れないで、外国語もなにもあったもんじゃない。そして一番大切なのは話すべき内容を持つということ。それを忘れた議論は意味がない。
そうはいっても、他言語を習得するということは、ものの見方を変えるのに非常に重要なことです。完全にしゃべれるようにならなくても、「バカの壁」の向こう側を垣間見るきっかけになるかもしれません。何事でもバランスが大事です。

-英語学習をする際のアドバイスはありますか。
英語学習をしようというときのコツは、英語で考えることだね。少なくとも辞書を使わずに読めるレベルになるまでは、必死でやんないとダメ。ある程度読めるようになったら、辞書は時々引けばいい。日本語だって同じでしょ。わかんなかったら飛ばして読めばいい。前後関係から読めばいいんです。年中辞書を引くと参っちゃうよね。
だからはじめは中学の教科書レベルで十分じゃない。中学の教科書が完全に頭に入っていれば、英語は十分しゃべれますよ。


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  養老 孟司氏写真
養老 孟司 Takeshi Yoro
1937年神奈川県生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年東京大学医学部教授を退官し、現在北里大学教授、東京大学名誉教授。著書に「唯脳論」など多数。


表紙画像
The Wall of Fools
『バカの壁』
養老孟司
IBCパブリッシング
ISBN 4-89684-026-7
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